COPD(慢性閉塞性肺疾患)という病気について
いま、近々おこなう当院の在宅医療勉強会に向けて、スライド作りをしています。
とても難しいです。
病院勤務時代から開業医である現在まで、
私自身とても多くのCOPDの患者さんと接してきました。
在宅医療や外来診療を行うなかで、今もCOPDの進行により在宅酸素療法を行っている方が大勢おられます。
多くの呼吸器専門の先生や看護師さんは、なんとなく、
あんな・・こんな・・感じの疾患・・
といったように、
言葉よりも、画像や動画の様なもので理解している方が多いのではないかと思います。
たとえば、
たばこをたくさん吸っていて、いつも ”ごほごほ” と咳をしている。
年をとってきて、どんどんやせていく。
やせたご老人が、少し歩くと ふぅー ふぅー と苦しそうに息をしている。
酸素ボンベを引っ張りながら、道を歩いている。
といったイメージでしょうか。
医学的なお話になりますが、
現在、COPDは以下の様に定義されています。
「タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することなどにより生ずる肺疾患。
呼吸機能検査で気流閉塞を示す。
気流閉塞は末梢気道病変と気腫性病変がさまざまな割合で複合的に関与し起こる。
臨床的には徐々に進行する労作時の呼吸困難や慢性の咳・痰を示すが、これらの症状に乏しいこともある。」
うーん、とても難しくわかりづらい!
勝手に病気を自分の言葉で説明すると・・
- 喫煙を続ける事により肺が破壊され、息切れがひどくなる病気。
- 坂道を上るときに息が苦しくなる、人よりも歩くのが遅くなってくる、などで気付くことが多い。
- 年をとるにしたがって、どんどん息切れがひどくなっていく。
- たんがからんだり、咳が続いたりすることが多くなる。
- 特に風邪をひいた後など、咳やたんがしつこく続く。
- 最終的にはやせてしまい、呼吸する力が衰えてくる。
- 酸素を使用しなければ、苦しくて動けなくなる。
こんな病気です。
以前は肺気腫や慢性気管支炎と呼ばれたり・・・
ほとんどの医療関係者にとっては、分かっているようでよく分からない
不思議な疾患ではないかと思います。
少しでもCOPDについて理解するために
COPDの歴史を調べてみました。
数百年前から、労作時の息切れが進行して最終的に呼吸不全をひきおこす病気の記述がありました。
これら患者の肺は解剖時にも過膨張しており、病理学的に「肺気腫」と命名されました。
(風船の一部が均一にふくらまず、ぼこぼこと突出して膨らむ部分が多々ある。
そんな感じの肺をイメージするとわかりやすいかも・・)
時は流れて
1950年以降、息切れや咳、咳嗽などの症状があり、呼吸不全を呈する慢性の肺疾患を
米国では「肺気腫」、英国では「慢性気管支炎」と臨床診断していました。
米国学派と英国学派で、今では同じ概念の疾患に違う名前をつけたのです。
これが、COPDを分かりにくくしている原因の一つかもしれません。
米国学派の「肺気腫」とは、解剖学的に肺の過膨張からつけた名前。
英国学派の「慢性気管支炎」とは、症候学に基づきつけた名前で、
”少なくとも2年以上、年間3ヶ月以上慢性の咳が続く状態” を指します。
その後、英国 Fletcher さんと米国 Burrow さんらが
肺気腫や慢性気管支炎など慢性の気流閉塞を来す疾患を統合し
「COLD(Chronic Obstructive Lung Disease)」と呼ぶように提唱しました。
そして、
1987年米国胸部学会(ATS)は「COLD」→「COPD」へと名称を変更。
現在の「COPD」という概念が誕生したのです。
2001年以降、
WHO(世界保健機構)とNHLBI(米国心臓、肺、血液研究所)を中心として
”GOLD(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease)”
COPDの疾患概念が今も更新され続けています。
このような感じで、COPDの概念は時代と共に変遷していくものの様です。
ちょうど私自身が医師になった頃は、「COLD」と「COPD」が併用されていた気がします。
今でも臨床現場では、病院間でやりとりする診療情報提供書に、同じ患者さんでも
臨床現場では、はっきりと割り切れない場合もあり、肺気腫、慢性気管支炎、COPD等それぞれ良く使用されています。
最後にCOPDの事をまとめてみます。
GOLDなどで語られる最新のCOPDの概念は、自分なりに以下の様に理解しています。
1. COPDは、たばこなどの有害物質を長期吸入する事で生じる。
喫煙がCOPDの最大の原因であるが、全ての喫煙者が発症するわけではない。
(1日1箱程度20年喫煙 → 20%程度の方がCOPDの発症)
非喫煙者がCOPDを発症する事もあり、COPDの発症には遺伝的素因の関与が疑われる。
2. COPDは、気流閉塞を示す事が疾患の中心部分。
慢性気管支炎もCOPDに含まれることが多いが、
慢性気管支炎というだけではCOPDとは呼ばないのかもしれない。
COPDの診断のためにはスパイロメトリー検査を行う事が絶対に必要で、
気流閉塞(閉塞性換気障害)がなければCOPDと呼んではいけない様である。
もちろん、気流閉塞を来す他の呼吸器疾患(気管支喘息など)は除外しなければいけない。
3. COPDの初期段階では肺胞の破壊による気腫性変化が中心で、その近くの末梢気道の炎症も併存する。
主に肺の気腫性変化により気流閉塞(閉塞性換気障害)が増悪していくが、さまざまな割合で末梢気道の炎症による関与もある。
4. COPDの症状は徐々に進行する労作時の呼吸困難や慢性の咳、痰である。
禁煙や治療により進行を遅らせることが出来る。
COPDと診断されても、進行の仕方や症状は人により大きく違うこともある。
場合によっては急速に進行したり、進行がとても遅かったりする。
痰が多かったり、ほとんど無かったりする。
もしかすると、将来は全く違うとされる病気がCOPDの中に多く含まれている可能性があるかもしれない。